上野紗奈さん/ドイツ・ニュルンベルク音楽大学クリストフ・ブラウン教授門下
大阪府出身。中学校入学、吹奏楽部入部とともにトランペットを始め、高校1 年生の時より早坂宏明氏に師事。高校卒業後、相愛大学音楽学部トランペット専攻生となり、引き続き早坂宏明氏のもとで学ぶ。在学中、卒業後も含めAndré Henry 氏のレッスンを複数回受講。その他、Thomas Hooten氏の公開レッスン及びアカデミーを受講。2015 年に、第20 回KOBE 国際音楽コンクール金管楽器C 部門にて最優秀賞並びに兵庫県知事賞を受賞。同大会ガラコンサートに出演。相愛大学卒業時、学生部長賞受賞、卒業演奏会学内公演に出演。関西トランペット協会新人演奏会に出演。
約2 年間のフリーランス生活を終え、2017 年に渡独。1 年間ハンブルクにあるHamburg Konservatorium に在学し、Jan-Christoph Semmler 氏のレッスンを受講。その後同じく北ドイツのリューベックに移り、1 年間Matthias Krebber 氏のレッスンを受講。2019 年秋よりニュルンベルク音楽大学大学院に在学し、Christoph Braun 教授のもとで学ぶ。2021 年夏卒業予定。
-まず簡単な自己紹介ということで、現在までの略歴を教えてください。
留学するまでの音楽経験は?何歳からなさっていましたか?
上野さん:中学校に入ると同時に吹奏楽部に入部し、トランペットを選んだのが始まりです。
高校卒業まで部活動を続け、そのあと相愛大学音楽学部に入学しました。
卒業後2 年ほどフリーランスとして色々なところで経験を積ませていただいたのちドイツに留学して、今4 年目になります。
-留学したきっかけを教えてください。
上野さん:大学を卒業してから色々なところで様々な曲を吹かせていただくにあたり、まだ自分に足りないところがたくさんあることに気づきました。
また、せっかく勉強を続けるならば、一度クラシック音楽の本場ヨーロッパに行きたいと思ったことがきっかけです。
大学に入った時から漠然と留学したいとは思っていましたが、その当時は単にヨーロッパへの憧れが強かった部分が大きく、本格的に考えだしたのは大学卒業後です。
-どうやって現在の学校を選びましたか?現在の学校に決まるまでのいきさつを教えてください。
また、決め手になった点はなんでしょうか?
上野さん:やはり受験をするにあたって一番大切になるのは先生とのコンタクトだと思うので、色んな先生に連絡をとって、演奏を聴いていただいたり、レッスンをしていただくということをしていました。
その中で今の先生と学校の雰囲気がとても自分に合うと思い、先生にその旨を伝えた上で受験にのぞみました。
とはいえまずはどこかの大学院に入学し、ドイツに残って勉強を続けることが一番の難関であり目標だったので、他にもいくつかの学校を受験しました。
その中で今の学校に合格できたことは本当に嬉しかったです。
色んな国から一つや二つの席を狙ってたくさんの受験生が集まるので、「ここで勉強したい」という意志や熱意を伝えることも大切だと教わりました。
-どのような試験・出願書類が必要でしたか?何か書き方のコツはあるのでしょうか?また、試験の思い出、苦労話などがありましたら、教えてください。
上野さん:私の場合受験で大変だと感じたのは、長時間の移動やホテル宿泊をしながら、慣れない土地で、絶えない緊張感の中で気持ちを落ち着けて試験に向けて集中することでした。
それを緩和するためにも事前に学校を訪れ、先生とお会いしておくことはとても大切でしたし、やはり初めて行く場所は勝手が分からず余計な緊張感を持ってしまって、試験に影響が出たのが残念でした。
ドイツの鉄道は遅延や運転取りやめがかなり頻繁に起きるので、前日入りなどをしてなるべく落ち着いた状態で試験にのぞむことをおすすめします。
-手続きで苦労した点はなにかありますか?
上野さん:留学したての時は右も左も分からない状態だったので、住民登録や携帯電話の契約、ビザの取得などすべてにおいて少し苦労しました。
市役所や外人局の職員さんは、人によって言うことが変わったりすることも珍しくないです。
どれも生活にかかわる大切な手続きなので、もし語学に不安がある方でドイツ語や英語ができるお知り合いの方がいる場合は、助けてもらうのが確実だと思います。
-留学準備はどのくらい前から始めましたか?
上野さん:私はわりと突然チャンスが到来して留学を決めたので、きちんと準備を始めたのは数か月前からだったと思います。
出発直前までなにかとバタバタし、日本での手続きや荷物の郵送などに追われていました。
-学費はどう捻出しましたか?
上野さん:はじめの2 年間はほとんどすべて両親に援助してもらっていました。
本当に突然決めた留学で、そのために貯金をしていたというわけでもなかったので、両親には頭が上がりません。
大学院に籍を置くことができて落ち着いてから今に至るまでは、子供たちへのレッスンで学費や生活費を稼いでいます。
今はコロナの影響でそれも難しいですが…留学生にもレストランでのアルバイトやレッスン講師など、お金を稼ぐ方法があるのはありがたいです。
-語学は日本でどのくらい勉強しましたか?現地でも語学学校に行った方がいいでしょうか?
上野さん:私はお恥ずかしながら挨拶くらいしかできない状態で渡独しました。
今思えばなんて勇気のある…と思う行動でしたが、優しい方々に恵まれたおかげで大きな問題は起きなかったように思います。
1 年半の間週3 回語学学校に通い、受験に必要なB2 レベルを取得しました。
とはいえ、語学ができるほうがすぐにレッスンもスムーズに受けられますし、生活にも困りませんし、独学でもなるべく事前に勉強していくべきだったなと心から思います。
-学校はどんな雰囲気ですか?その学校ならではの特徴は何かありますか?
上野さん:学校は比較的新しいので、伝統ある歴史あるというよりは、みんなが新しいことを取り入れながら自由に学んでいるという印象を受けます。
コロナの影響で今は静かで寂しいですが、コロナ以前は中庭や食堂で色んなジャンルのコンサートをしていたり、コロナ禍でもクリスマスは毎週SNSに学生が演奏したものがアップされていました。
つい最近では、街のいたるところで様々な専攻の学生がゲリラ公演のようなものをおこなってSNS に投稿するなど、そういう取り組みをおこなっているおかげで、学生にも人前で演奏する機会が与えられる上に、街の人にも喜んでいただけています。
とてもアットホームな雰囲気の中で勉強しています。
-日本人はどのくらいいますか?
上野さん:弦楽器が一番多いと思いますが、それでも10 人はいないくらいで、管楽器となると私が把握している分でも4,5人ほどです。
ピアノ科や声楽科も数人ずつだと思います。
同じアジア圏でも日本人は、中国や韓国から来ている学生に比べると格段に少ない印象です。
-日本と留学先で大きく違う点を教えてください。
上野さん:生活面の違いで言うと、人と人との距離感です。
見知らぬ人同士の挨拶や雑談、助け合いなどが日本よりも多く、街中で助けられること、逆にすすんで人を助けることも留学前に比べて多くなりました。
日本の人が優しくないわけではなく、色んなことを考えすぎてしまう、気をつかいすぎてしまうのに比べて、ドイツの人は拒否されたり遠慮されることを恐れることなく、行動が先にでているというイメージです。
学校で一番違いを感じるのは、毎週あるクラスでの小さい発表会の授業です。
今は人数を半分に分けておこなっていますが、毎週ソロの曲やエチュードなど、何でも好きな曲をトランペットクラスの生徒と先生の前で演奏し、各自コメントをもらう機会が与えられています。
そこでは褒めるだけではなく、直すべきところ、音程の高低、自分では気づかないくらい細かいところまで指摘してもらえるので、とても良い機会になっています。
もちろん逆に他の生徒にコメントをするときは、正直に良い点も直すべき点も遠慮なく言うようにしています。
-学校の授業はどのように進められていますか?日本でしっかりやっておいたほうがいい勉強などありましたら、教えてください。
上野さん:個人レッスンは日本と大きな差はありませんが、とにかく自分が今まで学んできた奏法や音楽性を自信をもって演奏することが、実りあるレッスンに繋がると思います。
私は特に最初の頃は控えめで受け身だったので、先生から「もっと自分を出しなさい」とよく言われました。
そうしないと、自分の持っている個性が出ないからです。
改めるべき点は指摘してくれますし、恐れずに表現することが大切だと日々実感しています。
日本で準備できることとすれば、とにかく自分が勉強したい曲やエチュードを、レッスンに持っていける状態にまで練習しておくことだと思います。
いつも同じ曲ばかりというのは折角の機会がもったいないですし、どの曲を吹いているときに自分の悪い癖や良いところが出るか分からないので、そのためにも先生に聴いていただく曲の選択肢が多いほうが良いかなと私は思います。
-先生はどうやって決めましたか?
上野さん:どの先生方も素晴らしいトランペッターだということは大前提として、その先生の演奏が好きなのか、レッスンの仕方が好きなのかをしっかりと考え、どの学校を受験するか決めました。
感覚的におっしゃる先生、緻密な練習方法を教えてくださる先生、とにかくお手本を聴かせてくださる先生。
どのレッスン方法が自分に合うかは、実際にレッスンを受けてみないと分からなかったので、とにかくお会いしてみることが大切だったと思います。
-日ごろ練習はどのようにしていますか?
上野さん: 今住んでいる家は楽器を吹くことができないので、学校で練習しています。
今はコロナの影響で練習時間が限られているので、学校の近くの教会で練習できるように先生がお世話してくださいました。
コロナが流行りだした当初は練習場所の問題で日本に帰ることも考えましたが、学校の開閉が週によって変わったりするので、ドイツに残れるようにしていただいて本当に良かったと思います。
-学外でのセッション、コンサートなどは行われますか?
上野さん:2 回ほど街の中心で他の金管楽器の学生と演奏をしたり、クリスマスにはクリスマスマーケットで演奏する機会がありました。
学校行事としても、学外のホールでのオーケストラ公演やオペラ公演があります。
現在はほとんど演奏会はありませんが、すこしずつ教会の礼拝で演奏する機会が設けられています。
コロナがなければ、学内外で年間たくさんの演奏会が行われていると思います。
-1 日の大体のスケジュールを教えてください。
上野さん:授業は大体いつも午前中で終わります。
9:00~13:00 の間に日によって違いますが、個人レッスン・伴奏レッスン・アンサンブルレッスンなどがあります。
なので朝8:00 や9:00 に学校に行ってウォームアップをします。
午後はアンサンブルの練習があったり、何もない日で練習場所が確保できるときは個人練習をし、夕方頃にはたいてい家にいます。
あとは自由時間なので、今は卒業演奏会の準備をしていることが多いです。
-現地の音楽業界へのツテはできますか?
上野さん:演奏の機会については、先生からクラスに一斉にインフォメーションがあったり、個人的にいただくことがあります。
プロの方と知り合う一番の道は、オーディションを受けてオーケストラのアカデミーに所属することだと思いますが、年齢制限があったり、招待されないとオーディションを受けられないなどの壁があります。
-周囲の人の学習態度に関しては、日本とどう違いますか?例えばどのような点が違うと思いますか?
上野さん:一番違いを感じるのは先生との距離感です。
日本で勉強していた時は、私にとって先生は絶対的な存在で、すべてを吸収しようと受け身になっていたのですが、ドイツに来てからは…私はまだそこまではできませんが、他の生徒は受け入れられない意見や指摘、音楽性の違いは飲み込まずに議論しますし、私も自分から積極的に質問したり先生と話し合う機会が増えました。
ただ「どうしたらいいでしょうか」と待って、教えていただいたことを真似するのではなく、「私はこう思うので、一度聴いてください」と演奏してみて指摘をいただくという形です。
以前に比べると、主体性が出てきたかなと思います。
-授業以外はどのように過ごされていますか?
上野さん:今は難しいですが、思いつきで友達とカフェに行ったり買い物をしたり、一緒にご飯を食べることが好きでした。
今は近所の大きな公園や市内をただぼーっとしながら散歩することがストレス発散になっています。
あとはお菓子を焼いたり、運動したり、映画を観たり…バチが当たりそうなくらい悠々自適に過ごしています。
-日本人以外の人たちと付き合うコツはありますか?
上野さん:コツははっきりとは分かりませんが、とにかくみんな拙いドイツ語でも話を聞いてくれるので、怖がらず自分から話すことが大切だと思います。
遠慮のしすぎはよくないと私はよく言われます。
-宿泊先はどのようにみつけましたか?
上野さん:私はいつも家賃を低価におさえるためにシェアハウスを選んでいるので、同居人になる人との相性が大切になってきます。
家賃をあまり気にしなくてもいいなら、少し高めの学生アパートなどは出入りが激しいので比較的すぐに空きが見つかります。
しかし、色々な条件に合う住居を探すとなると、かなり苦労します。
ドイツ人にとっても、ドイツでの家探しは簡単ではないそうです。
シェアハウスの場合も、募集がかかった途端にひとつの枠に10~20 人殺到します。
見学の際に、自分が綺麗好きで、フレンドリーで、日本人だけれどコミュニケーションにも困らないですとアピールするのに必死でした…。
住居を見つけるサイトはいくつかあってとても便利ですが、たまに詐欺物件なども紛れているので、十分注意してください。
-生活費はだいたい1 か月いくらぐらいかかりますか?
上野さん:私の場合家賃は約300€、毎月払う保険料が100€、その他食材の買い出しのための出費が週に一回10~20€なので、臨時の出費がなければ大体月500€未満くらいだと思います。
家賃が光熱費諸々すべて込みでこの安さにおさえられていることに助けられています。そこはシェアハウスの利点です。
-留学してよかったと思える瞬間は?
上野さん:やはり楽器の面で自分の成長を感じられたときです。
レッスンを受けたことで以前はできなかったことができるようになったり、表現の幅がひろがったときに、はるばるドイツまできてよかったと思えます。
音楽以外ですと、ドイツにしかない綺麗な景色や建物、特に教会や大聖堂などに出会ったときに、幸せを噛みしめています。
-留学して自分が変わった、成長したというところはありますか?例えばどんなことですか?
上野さん:一番変わったのは積極性の有無だと思います。
積極的に自分から行動を起こす姿勢がないと、留学を終えた時に後悔すると思い、不安なときも無理矢理自分を奮い立たせることが多くなりました。
あとは他の人の良いところを見つけたり、自分が受けた指摘を受け入れる柔軟な頭をもつことも、本当は前から身につけておくべきだったのだと思いますが、留学してからようやくそれができる心の余裕ができたように思います。
-今後はどのような進路を考えていますか?
上野さん:もともと日本で演奏するときにもっと期待に応えたい、自由に演奏できる技術が欲しいと思っての留学だったので、大学院を卒業したら一度帰国して、日本で演奏の機会をいただけるようにまた一からチャレンジする予定です。
4 年も日本を離れていたので不安はありますが、とにかく今は誰かと音楽をしたい気持ちでいっぱいです。
あとは折角ドイツで学んだことを、色んな人に伝えたいと思っています。
-これから留学する人が、心しておかなければいけない点、アドバイスしておきたい点がありましたら、お願いします。
上野さん:なぜ留学をしたいのか、が明確であるべきだと思います。
「ただヨーロッパで音楽を勉強したい」だけでも、それが心からの願いなら、自然に体が動いて、学ぶ機会や場所を見つけられると思います。
長期留学の場合、私たちにはどうしてもビザの問題がついてくるので、どのくらいその国に居たいのか、どうやって残るのか、費用はどうするのか、なども常に明確である必要があります。
心細い、この先が不安だと思うこともありましたが、「色んな人の助けがあって特別な機会を得られている」という意識が、私を助けてくれました。
周りの人と比べず、周りの意見に流されず、「自分が何をしたくて海を越えているのか」を大切にしてほしいです。
-クリストフ・ブラウン先生の特徴を教えていただけますか?
上野さん:どんな問題や質問に対しても、すぐに解決策や答えを出してくださいます。
時にはすぐに直るものではなく根気のいるものであれば、その場合もはっきりと教えてくださいますし、もし一つ目の解決策が合わなければ二つ目、三つ目と、とにかくたくさんの引き出しをお持ちなので、とても心強いです。
褒めるだけではなく、だめなところにとことん付き合ってくださるので、成長や改善が実感できます。
ひとりひとりの生徒と向き合って、どんな不安も消してくださる先生です。
-インタビューへのご協力いただきありがとうございます。